陸抗の諡は「武侯」

 陸抗おくりなは『三国志』には載っていないが、陸雲陸抗の子、西晋の文人として知られる)の「祖考頌」という作品で判明するらしい、と聞いて調べてみた。

祖考頌(有序)

雲之世族,承黃虞之苗緒,裔靈根之遺芳。用能枝播千條,穎振萬葉。繁衍固於三代,饗祀存乎百世。豈非皇慶之積祐,神明之殷祥者哉! 在周之衰,有媯之後,將育于姜,而貞龜發鳴鳳之兆,周史表觀國之繇。故能光宇營丘,奄有東海。支庶蕃廡,而胤祚昌大矣。

遭世多難,子孫蕩析,逐于南土。烈祖丞相邵侯,顯考大司馬武侯,明德叡哲,沉雄特秀。固上天所以繼跡前期,惠成顧者也。是以有吳雲興,而邵侯龍見。遂風騰海堣,電斷荊楚。運籌制勝,底定經略。文德光宣,武功四克。乃作台衡,以御于王政。天綱與先代比隆,義問與前修接響。固所謂汪汪浩浩,不世出者哉!

武侯以光遠之度,襲重規之範,秉宣朗之明,照曾暉之景。故寅亮樞極,則萬物淳曜,緝熙有邦,而宇内恪居。及至中葉,亂自虎臣,綏援既集,而大難時弭。德濟封域之内,威陽函夏之表。遂仍世作宰,焜曜祖業。車實襲軌,裘不改帶。元勳昺於光國,洪烈著於隆家。考德計功,比之前代,未有茂於此者也。是以小子敢慕徽猷,欽述芳烈。雖不足以當朱絃之一唱,發清廟之三歎,蓋爾臣子之遺恩罔極之所處也。乃作頌曰:

悠悠聖緒,上帝是臨。世篤其猷,于顯徽音。神風往播,福祿來尋。靈根既茂,萬業垂林。繁盛海堣,穎寧漢隂。既曰寧止,芳祐允淑。乃步斯淳,降神有陸。赫矣二公,應期載育。

明明邵侯,允哲允謀。叡心昭德,叔問宣猷。如日之昇,如川之至。炎精既頹,黃暉昺煥。光宅海邦,大造江漢。王于出征,二公斯難。長驅致届,九有有判。咸黜凶醜,區域寧晏。天祿未終,大命有集。卜食東夏,元龜既襲。聿來故宮,作蕃舊邑。公徒斯振,帝旅凱入。於變時雍,神道經始。肅肅九命,永言徽止。公拜稽首,對揚天子。猗歟盛歟,邵侯有作。

我考纂戎,爰究爰度。遠除尋軌,崇基式廓。昭明有家,祖廟奕奕。中葉虎臣,稱亂西秦。靈旆電揮,伐鼓霆震。會朝哀舉,征不浹辰。遐風遠掃,萬里無塵。有族斯祐,念功在茲。袞衣之宜,遂作上司。台光增朗,方險載夷。穆矣暉章,有吳之旗。

我祖我考,受言藏之。曄曄藻裳,再命同服。騑騑四牡,二世方轂。分珪比瑞,天秩底祿。公堂峻趾,華構重屋。皆在二伊,于殷有聲。在漢之興,亦曰韋平。惟祖惟考,履貞大亨。邈彼披陽,追蹤阿衡。駿惠雨施,景潤雲行。洋洋玄化,功濟其民。風馳海表,光被嶽濱。二后重規,世有哲人。肅雍碩響,萬載是振。

陸雲著、劉運好校注整理『陸士龍文集校注 下』鳳凰出版社、2010年、P881〜905

『欽定四庫全書 陸士龍集 巻六』(Internet Archive 内) ※リンク先PDFの48ページ〜

 「祖考」は祖先のことだが、もっと具体的に「亡祖父と亡父」との意味もあるようだ。「頌」は人の徳や物の美などをほめたたえることで、要するに、自身の祖父・陸遜と父・陸抗のすばらしさを讃える詩のようなのだが、難解で読めない……。ともかくこの「祖考頌」の序に「顯考大司馬武侯」とあることから(「顕考」は亡き父上の意)、陸抗の諡は「武」であることがわかる。まあ、意外性がないというか、非常に妥当なイメージ。

 ちなみに陸遜はここでは「邵侯」とされる。『陸士龍文集校注』では序の「烈祖丞相邵侯」の部分の注で、同じく陸雲作の「呉故丞相陸公誄」では「江陵郡侯」の表記があることから、「邵」は「郡」の誤りで「江陵」が脱落した「江陵郡侯」なのではないかとしている。しかし『三国志』呉書陸遜伝には「孫休時,追謚遜曰昭侯。」(孫休の時代になって、陸遜に昭侯という諡が追贈された。)とあり(「邵」と「昭」は通じる文字)、『祖考頌』本文にも「邵侯」と出てくることから、これは諡ではないだろうか?


 なおこの頌を作ったときのことについて陸雲は兄の陸機に、

雲再拝。先日、蔡邕の「祖徳の頌」を見ました。述作というものは、祖先を褒め揚げるのを第一にしなければならず、それで自分もこの頌(「祖考頌」)を作りました。今、同封いたします。どうか兄上が添削してみて下さい。短くしようと思うのですが、長くなってしまいます。短くするのが一番だと思うのですが、碑文はだいたい長くなってしまうようで、(内容が)悦愉しているのは、賦に似てしまっているようです。私は、少し(内容を)質なるものにすれば佳い作品になると思います。以前、この頌を作って書き上げたので、近いうちにお手紙を差し上げて、兄上に見ていただこうと思っておりました。ところが昨日、兄上に賦(しごと)があるとの知らせを聞き、がっかりして頼る所もありません。見ていただきたかったし、手紙も書いてしまったし、手紙のついでに同封いたします。ついで李寵の「封禅文」の草稿を手に入れました。本当に才のあるものですが、少し煩長な所が目につきます。お送り致します。最近、ある人が張公の作ったものを持っていたので、書き写して別にお送りしました。臨紙罔罔。もう申し上げることはありません。謹啓。

佐藤利行『陸雲研究』白帝社、1990年

 という手紙を送っている。後世に残る「祖考頌」は陸機の元に届いた添削済の最終バージョンなのだろうか。それにしても持つべきものは文人の息子である。陸機作の陸抗誄などとともにいつかは本文解読を試みたいけれど、佐藤先生は現代語訳を出してくれないものか……

公開:2011.07.18 更新:2011.10.10