陸抗の名前 - 節を抗ぐ

 姓は、名はあざな幼節。彼の名前の意味について。

(一)アげる〔アぐ〕。高くあげる
(二)アタる。はりあう。てむかう。はむかう。抗争「抵─」
(三)フセぐ。防。こばむ
(四)高い
(五)おさめる。しまう

『新明解 漢和辞典』(三省堂)

① あ-げる(あぐ)。上にあげる。持ち上げる。
② あらが-う(あらがふ)。さからう。てむかう。あ-たる。「反抗」「抵抗」
③ ふせ-ぐ。こばむ。
④ すすめる(進)。
⑤ たかい。高くする。
⑥ おさめる。しまいこむ。

『新漢語林 第二版』大修館書店

 結論から言えば、字「幼節」との意味の関連性を考えるに、この名は「高い」・「上げる」という意味なのではないか。

 しかし、偶然とはいえ、晋の脅威から末期の孫呉を守り抜いたという彼の功績とポジションを考えると、「防ぐ」という意味もよく似合う。

 男子の名は父親が付けるそうなので、この「」という名は、陸遜による命名である可能性が高い。孫氏に臣下の礼を取り、忠義を尽くしながらも、名家・陸氏の血統とプライドを護り抜いてほしい。そんな父・陸遜の隠れた思いまでも託されていて、「抗う」という意味もあってもいい、と思ったりもする。

 どの意味をとっても、なんとも彼に相応しい名なのである。

幼節

 「幼」という文字は、伯・仲・叔・季のような兄弟順を表す序列の末子に付いていることが多い。遅くに生まれた子に付けられるのかもしれない。

 陸抗は確かに末子ではあるが、同時に次男であり、兄の死の時期によってはただ一人の息子ともいえる。陸抗が生まれたのは、父陸遜が数え年四十四歳のとき。当時の次男としてみれば、むしろ祖父に近い世代ではないだろうか。

【節】
(四)みさお。節操。志や行ないを変えないこと

『新明解 漢和辞典』(三省堂)

[節]
②みさお。自分の志・行動・主義を固く守って変えないこと。

『新漢語林 第二版』大修館書店

 「節」の意味は他にも多数あるが、ここではこの「みさお」の意が一番相応しいのではないだろうか。と思うのは、「抗節」という言葉があるため。

【抗節】コウセツ、セツをあぐ
自己の意思を守って屈しない。節操を高尚にする。漢書、賈誼伝「——致忠、行出虖烈士」

『新明解 漢和辞典』三省堂

 字は、自ら付けることも多いようである。陸抗はこの「抗節」を、自らの生き方として選択したのかもしれない。

 生涯、国に忠誠を尽くし、なおかつ権力や暴力に屈することなく、志を貫いた陸抗。呉の末期、帝・孫晧への上奏文の中で、彼は言う。「正しく主君に仕える道とは、主君のお気持に逆らってご意見を申し上げることはあっても、主君を欺くことがあってはならず、臣下たるものが執るべき志操とは、わが身の安全は顧みず、王事に殉ずべき」であると。そんな生き様に、こちらも大変相応しい命名である。