もしも280年に

 呉の滅亡した280年ごろまで陸抗が存命であったら、どうだったのか?

 陸抗が生きていれば呉は敗けなかった! なんて仮定は、ちょっと夢見がちすぎる。後世の誰かが陸抗を失って呉は滅びた、と言ったが、それも起こらなかったからこあり得た美しい仮想のように思う。もう少しは対策が講じられていて滅亡が遅れたとか、晋軍もそこそこ被害を受けたとか、細かな違いはあったかもしれないが、それにしたってさすがに遠からず滅ぼされただろう、と呉ファンとしても陸抗ファンとしても思っている。

 そして陸抗が敗戦まで生きていたとしたら、彼も晋に仕えることになったんだろうか。陸喜や二陸たちも結局そうなったわけで、現実はそんなものだろう。ただ、陸機がきっとそうだったんだろうと思えるように、生涯、心から晋の人たちに心を開くことはなかったかもしれない。

 ……中には諸葛靚みたいな頑固者もいるので、絶対に仕えたとも言えないが。ただ、彼の動機は忠ではなく孝なので、ちょっと事情が違うか。

 夢見るなら、陸抗には、存命ならば敵軍総大将だったであろう羊祜に斬られて戦死してほしい。この場合、斬られる方よりも斬る方が、不幸だろう。死んだ側は無だけれど、残された側はすべてを背負わされる。敵でありながら友であるその関係の真髄は、最終的にその手にかけるべき重みと、自ら手を下した後にひとり残される孤独と痛みにある。

 しかし陸抗が存命かどうか以前に、羊祜が存命かどうかで晋軍の強さが全然違うのではないか。実際の総司令官はイマイチやる気ないのに、あんなに圧勝だったのかと思うと……

 基本、歴史改編レベルのIF話は好みじゃないのだが、このあたりは結構アリのような気がしてきた。何より私は羊陸には、一度はガツンと正面衝突して欲しかったな、という悔いが根本にある。西陵の戦での化かし合いや徳の冷戦も、それはそれでとても好きではあるんだけど、ぶっちゃけ斬ったり斬られたりしてほしいでしょ!(*´∀`)

 むしろどうせなら演義ノリで一騎討ち! 一騎討ちならば陸抗の方がやや強いのを希望する。羊祜は文化系、というか、個人戦経験なんてなさそうというか。(そういえば、ゲームなどで大概、羊祜の方が陸抗よりも武力相当のパラメータが高いのが解せない。ふたりとも個人武力が判明するようなエピソードは特に存在しないはずなので、指揮官としての能力で設定されているはずだが、敗けてんじゃん! と言いたい)

 それに、キャライメージとして、羊祜は剣で人を斬るなどはあまり好きそうじゃない気がするのだ。一方、陸抗は大して才能がないのを自覚しながらも、とりあえず完璧主義根性でがんばって日々剣技など磨いていてほしく、特に若い頃は負けず嫌いだったりするといい。……っていうか正直ふたりとも腕力体力や個人戦等能力は低く、吾彦などの真の武闘派には片手であしらわれるレベルであるべきであると思う。

 もっとも陸抗の方が強かったら、一騎討ちで戦死というのは成り立ちにくいだろうか。予め敵が弱っていたりしたら、羊祜は少なくとも自分の手では斬らない人だろうと思えるのだが。逆に陸抗には、これと決めたら敢えて手負いの敵をも容赦なく斬ってほしい。それが優しさゆえか冷酷さゆえかは、どっちつかずなところで。

2008.02.06