「虎嘯龍吟」に登場する古典 ⑧ 36〜40話(軍師連盟 78〜82)

中国ドラマ「三国志〜司馬懿 軍師連盟〜」(原題:第一部「大軍師司馬懿之軍師聯盟」第二部「虎嘯龍吟」*注)の台詞に引用される故事・詩などの出典を調べた。赤枠は本編の字幕より引用。
*注:日本語字幕版は「虎嘯龍吟」1話を43話とし、全話連番。

目次

虎嘯龍吟 36話(78話「張春華のために」)

曹冏そうけい六代論りくだいろん」より(『魯連子(魯仲連子)』に基づく)?

司馬懿の影響力を侮る曹爽と、警戒する何晏のやりとり。日本語字幕では省略されているが、「百足之虫、死而不僵」という表現が用いられている。
字句・意味は多少異なるが、魏の曹氏一族である曹冏曹爽を感悟させるために書いた上奏文「六代論」に「百足之蟲、至死不僵」という諺が引かれている。

(何晏)
大将军就这么放了司马懿
我心中总是不安
百足之虫死而不僵
他就算是折了翼
他也是雄鹰啊

(曹爽)
他算什么雄鹰啊
一只等死的老鸹罢厅

(何晏)
簡単に司馬懿しばいを許すのは
どうにも不安だ
たとえ翼が折れていても
あやつはたかだぞ

(曹爽)
何が鷹だ
死を待つだけの老いたからす

百足之虫,死而不僵 bǎi zú zhī chóng, sǐ ér bù jiāng
〈成〉ムカデは死んでも倒れない;〈喩〉力のあるものは倒れてもその影響力が残る.

『中日辞典(第3版)』(小学館、2016年)

[……]夫泉竭則流涸、根朽則葉枯。枝繁者蔭根、條落者本孤。故語曰、百足之蟲、至死不僵。扶之者衆也。[……]

通釈 [……]そもそも、泉が枯渇すると流れは止まり、根が朽ちると葉は枯れる。枝葉の多い木は根をおおい隠し、枝葉が落ちると根は孤立する。
それ故、諺に「百足の虫は、死ぬまで倒れることはない」という。助け支える足が多くあるからである。[……]

故語曰……扶之者衆也 李善の引く『魯連子』に「百足の虫、断に至るまで蹶かざるは、之を持する者衆ければなり」という。

竹田晃『新釈漢文大系 第93巻 文選(文章篇)下』(明治書院、2001年) 六代論(曹冏) pp.219-220

虎嘯龍吟 37話(79話「悲しみに暮れて」)

詩経しきょう国風こくふう周南しゅうなん麟之趾りんしし」より

曹爽の子・曹麟洗三せんさん(生後三日目に行われる産湯の儀式)で何晏丁謐ら取り巻きが祝う。日本語字幕では意訳されているが、一族の繁栄を祈る詩(諸説あり)で、曹麟の名と掛ける。なお曹爽の子について『三国志』には記述がない。の名もドラマの創作か。

于嗟麟兮 振振公子
小公子骨骼清奇
将来必是国之栋梁啊

麒麟きりんのごとき寵児ちょうじなり
その風采は麒麟のごとし
必ずや将来は
国の棟梁とうりょうとなられよう

【麟趾】りんし 子孫に賢人が多いたとえ。〔詩・周南・麟之趾〕麟之趾ナリ、振振タル公子アリ

『角川新字源(改訂新版)』(角川書店、2017年)

麟之趾 振振公子
于嗟麟兮

麟之定 振振公姓
于嗟麟兮

麟之角 振振公族
于嗟麟兮

りんあし 振振しんしんたる公子こうし
于嗟ああ りん

りんひたひ 振振しんしんたる公子こうし
于嗟ああ りん

りんつの 振振しんしんたる公子こうし
于嗟ああ りん

通釈 (生命の神である聖獣の麟、その)麟のあし、(その呪力に守られて)盛んに繁栄する我が子孫。ああ麟よ(我らを益益繁栄させたまえ)。
 (生命の神である聖獣の麟、その)麟のひたい、(その呪力に守られて)盛んに繁栄する我が子孫。ああ麟よ(我らを益益繁栄させたまえ)。
 (生命の神である聖獣の麟、その)麟のつの、(その呪力に守られて)盛んに繁栄する我が子孫。ああ麟よ(我々を益々繁栄させたまえ)。

石川忠久『新釈漢文大系 第110巻 詩経(上)』(明治書院、1997年) 國風・周南・麟之趾 pp.38-40

春秋左氏伝しゅんじゅうさしでん』隠公元年より

司馬昭鍾会に、曹爽を倒すのは今ではないと語る。
鄭の荘公の弟共叔段が母に寵愛されて増長し、簒奪を危惧した臣下らが討つように進言したが、荘公は「多く不義を行わば、必ず自ら斃れん」として取り合わなかった。やがて共叔段は謀叛を起こそうとしたが、支持を得られず敗北した故事に基づく。

左传里有一句话说得很好
多行不义必自毙

春秋左氏伝しゅんじゅうさしでん」にいわく
“不義を重ねれば
 おのずと倒れる”

多行不義、必自斃 おおクふぎヲおこなハバ、かならズみずかラたおレン
多く不義の行いをすれば、きっと自滅しよう〈左・隠元〉

『全訳 漢辞海(第四版)』(三省堂、2017年)

[……]對曰、姜氏何厭之有。不如早爲之所。無使滋蔓。蔓難圖也。蔓草猶不可除。況君之寵弟乎。公曰、多行不義、必自斃。子姑待之。旣而大叔命西鄙・北鄙貳於己。公子呂曰、國不堪貳。君將若之何。欲與大叔、臣請事之。若弗與、則請除之。無生民心。公曰、無庸、將自及。大叔又收貳以爲己邑、至于廩延。子封曰、可矣。厚將得衆。公曰、不義不昵。厚將崩。大叔完聚、繕甲兵、具卒乘、將襲鄭。夫人將啓之。公聞其期曰、可矣。命子封、帥車二百乘以伐京。京叛大叔段。段入于鄢。公伐諸鄢。五月辛丑、大叔出奔共。

[……]こういはく、おほ不義ふぎおこなはば、かならみづかたふれん[……]

通釈 [……]祭仲は、「あの姜氏はこれで満足するということはないでしょう。今のうちに早く適当な処置をなさるにこしたことはありません。草がしげりはびこるように、増長させてはいけません。増長すると、あとで処置ができなくなります。草でもはびこってしまうと取り除くことはできません。ましてや、おごりたかぶっている弟君ではなおさらです」とかさねて進言した。荘公は、「不義をかさねてゆけば、自分からたおれるにちがいない。その時機のくるまで、しばらく待ちなさい」といって祭仲の進言に従わなかった。[……]やがて大叔は西境と北境の両地を自分の領地とし、さらに鄭の廩延の地までも勢力を伸ばしてきた。そこで公子呂は、「今こそ大叔を討つべきである。領地が広大になれば、民衆の信望を得るようになるでしょう」と進言したが、荘公は、「不義な者に大衆のつく道理はない。領土をひろげても、必ず自滅するであろう」といって動かなかった。勢いに乗じた大叔は、城壁をかため、兵糧を集め、甲胃や武器をつくろい、軍隊と兵車をととのえて、鄭の都を襲撃しようとし、母の姜氏がその手引きをする計画をたてるに至った。大叔が攻め入る期日を聞いた荘公は、「今こそ討つべきである」といって、公子呂に兵車二百台をひきいて京城を討たせたところ、果たせるかな、京城の民は大叔にそむいて、大叔の軍は瓦解し、大叔はえんに逃げ走った。荘公は進擊して大叔を鄢の地で破り、五月辛丑かのとうしの日(二十二日)に、大叔はきょうの国に出奔してしまった。

鎌田正『新釈漢文大系 第30巻 春秋左氏伝 一』(明治書院、1971年) 隠公 pp.48-51

虎嘯龍吟 38話(80話「司馬懿、覚醒す」)

韓非子かんぴし喩老ゆろう篇より

高平陵に詣でるに際し、洛陽を空けることを懸念する丁謐が、司馬懿はもう老い耄れて敵ではないと油断している曹爽何晏に忠告する。日本語字幕では意訳されているが、「大将軍は『三年不飛、一飛沖天』(という言葉)を聞いたことがないのか?」と言っている。楚の荘王が位についてから三年何もしないかに見えたが、焦らなかったことで大器晩成したという故事に基づくものか。

何驸马一向痛恨司马懿
这次为何如此托大
大将军不闻
三年不飞 一飞冲天

何駙馬かふばは奴を
恐れていたではないか
不意を打たれたら どうする

楚莊王莅政三年、無令發、無政爲也。右司馬御座而與王隱。曰、有鳥止南方之阜、三年不翅、不飛、不鳴、嘿然無聲、此爲何名。王曰、三年不翅、將以長羽翼。不飛、不鳴、將以觀民則、雖無飛、飛必沖天、雖無鳴、鳴必驚人。子釋之、不穀知之矣。處半年、乃自聽政、所廢者十、所起者九、誅大臣五、舉處士六、而邦大治。舉兵誅齊、敗之徐州、勝晉於河雍、合諸侯於宋、遂霸天下。莊王不爲小害善。故有大名。不蚤見示、故有大功。故曰、大器晚成、大音希聲。

通釈 楚の荘王は位に即いてから三年の間、令を発しもせず、これという政治もせぬ。ゆう司馬のなにがし﹅﹅﹅﹅が王座に侍して、王になぞをかけた、一羽の鳥が南の丘にとまっておりまして、この三年みとせ、羽ばたきもせず、飛びもせず、鳴きもせず、だんまりの、声なしでございます、この鳥の名は何でしょうか、と。王は答えて、三年みとせ羽ばたかぬのは、そうやって羽を伸ばしているのだ、飛ばず鳴かずでいるのは、そうやって人々の動き方を見ているのだ、今は飛ばぬが、飛んだら必ず天にまっしぐらに飛び、今は鳴かぬが、鳴いたら必ず人をびっくりさせる。(わたしのことは)打ち捨てておいてほしい、わたしは自分でよく知っておるんだ、と。それから半年ほどすると、ここで自分で政治に乗り出した。[……]ついに天下に覇者となった。即ちかれは小善に手を出さず、早く世に出ようとしてあせることがなかったから、のちに大功を立て、大名を成したのである。故に老子は言う、大器は成るのがおそく、大音は立つのが稀である、と。

竹内照夫『新釈漢文大系 第11巻 韓非子(上)』(明治書院、1960年) 喩老第二十一 pp.289-290

史記しき項羽こうう本紀より

曹爽の留守に、ついに決起する司馬懿の言葉。「破釜はふ沈舟ちんしゅう」は項羽が鉅鹿の戦において決死の覚悟を示した故事に由来する四字熟語。日本語字幕ではより馴染みのある「背水の陣を敷く」(韓信の故事に由来)と意訳されている。なお「釜底抽薪」は26話などに登場した。

破釜沉舟就在今日
扬汤止沸不如釜底抽薪

ついに時は満ちた
背水の陣を敷き 打って出る

【破釜沈舟】はふちんしゅう
陣地で炊事のかまをこわし、舟をしずめる。戦争で前進して帰らない決意を示す。〔史・項羽紀〕

『角川新字源(改訂新版)』(角川書店、2017年)

[……]乃遣當陽君・蒲將軍將卒二萬渡河救鉅鹿。戰少利。陳餘復請兵。項羽乃悉引兵渡河。皆沈船、破釜甑。燒廬舍、持三日糧、以示士卒必死無一還心。於是、至則圍王離、與秦軍遇、九戰、絕其甬道、大破之。[……]

通釈 [……]項羽は当陽君黥布と蒲将軍とを派遣して、兵二万をひきいて漳河を渡って趙の鉅鹿を救援させたが、その戦いはあまり有利でなかった。鉅鹿の北に陣取っていた趙の将軍の陳余は、再び項羽に援軍を要請してきた。そこで、項羽は意を決し、楚の全軍をひきいて黄河を渡り、その時使用した船はみな沈め、釜や甑の炊事具はこわし、宿陣にあてた住居を焼きはらい、わずか三日の食糧を持っただけで、必死の覚悟をきめ、生還する意志がみじんもないことを士卒に示した。こうして、項羽は疾風の勢いで鉅鹿に至ると直ちに王離の軍を包囲し、章邯のひきいる秦軍と遭遇戦を演ずること九回、ついにその甬道を遮断して、大いに秦軍を破った。[……]

吉田賢抗『新釈漢文大系 第39巻 史記 二(本紀 下)』(明治書院、1973年) 項羽本紀第七 pp.441-442

虎嘯龍吟 39話(81話「洛陽占拠」)

郊祀歌こうしか十九章「日出入」より

汲布が去った洛水の岸辺で、司馬師司馬懿が語り合う。かつて軍師連盟13話にも登場した漢代の郊祀歌。

(司马师)

有的人走
有的人留下
我们所做的事
后世会怎么看
今日升起的太阳
明日还是我们的吗

(司马懿)
日出入安穷
时世不与人同
故春非我春
夏非我夏
秋非我秋

非我冬

(司馬師)
父上
去る者がいれば
残る者もいます
我らの行いを
後世は どう見るか
今日 昇った太陽は
明日も我らのものでしょうか

(司馬懿)
“日は絶えず昇り また沈む
 時の流れは
 人と同じからず
 ゆえに春は私の春でなく
 夏は私の夏でない
 秋は私の秋でなく
 冬も
 私の冬ではない”

日出入安窮?時世不與人同。故春非我春,夏非我夏,秋非我秋,冬非我冬。泊如四海之池,遍觀是邪謂何?吾知所樂,獨樂六龍,六龍之調,使我心若。訾黃其何不徠下!

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日ので入る、いずくんぞ窮まらん。
時世は長く人生は短くして同じからず。
故に春はわが春にあらず、夏はわが夏に非ず、
秋はわが秋に非ず、冬はわが冬に非ず。 (20)

日は泊たる四海を出で入りて、
あまねくこの人の世を観るも、これを如何すべき。
われ楽しむところを知りて、独り六龍を楽しみ、
六龍を御して乗りならすことにわが心をしたがわしむ。
訾黄しこうそれ何ぞくだきたらざるや。

(20) 日の経る四季は窮極なく、人の寿命をもってくらべられぬことをいう。
[……]

小竹武夫訳『漢書 上巻 帝紀 表 志』(筑摩書房、1977年) 礼楽志第二 p.203

虎嘯龍吟 40話(82話「裏切りの代償」)

春秋左氏伝しゅんじゅうさしでんびん公元年より

曹爽の罪状を挙げ、処刑すべきと進言する司馬昭軍師連盟4話にも登場した「慶父不死、魯難未已」という成語。日本語字幕では意訳されている。

曹爽用国库笼络人心
随意封赏官爵
显得慷慨好士
许多士大夫都被他所骗
他活着一日
这些人一日蠢蠢欲动
庆父不死
鲁难末已

曹爽そうそうは国財をばらまき
官職を与え
多くの官吏を
味方に引き入れました
生かしておけば
暴動が起きます
元凶を除いて鎮めねば

庆父不死,鲁难未已 Qìngfù bù sǐ,Lǔ nàn wèi yǐ

(成語) (慶父は春秋時代の魯荘公の弟で,荘公の死後その2人の息子が君主になったが,すべて慶父に刺し殺され,魯の国は乱れたことから;慶父を殺さなければ,魯の国の困難は終わらない)元凶を除かねば難はなくならない.

Weblio > 白水社 中国語辞典

冬、齊仲孫湫來省難。[……]仲孫歸曰、不去慶父、魯難未已。公曰、若之何而去之、對曰、難不已、將自斃。君其待之。[……]

[……]仲孫ちゅうそんかへりていはく、慶父けいほらずんば、なんいままじ、と。[……]

通釈 冬に斉の大夫の仲孫湫が魯に来朝して魯の乱れを視察した。[……]仲孫が斉に帰って斉侯に、「魯の慶父を除かなければ、魯の騒ぎはおさまらないでしょう」と報告すると、斉侯は、「どうしたら慶父を除くことができようか」とたずねた。仲孫は、「騒ぎがおさまらないと、自分から倒れるでしょう。君にはそれまでお待ちなさい」とお答えすると、[……]

鎌田正『新釈漢文大系 第30巻 春秋左氏伝 一』(明治書院、1971年) p.240

春秋公羊伝しゅんじゅうくようでん荘公そうこう三十二年より

曹爽らが帝位簒奪の企てをしたとして言上する鍾会
鍾会の発言ではないが、『三国志』魏書 曹爽伝に記載された判決にほぼ同様の内容がある。なお史書では企てに関わった宦官の名は韓琳ではなく張当であり、その供述が一味逮捕のきっかけとなった。

启禀陛下
臣己经审明
主犯曹爽
从犯曹羲 曹训
丁谧 何晏 邓飏 毕轨
李胜 桓范 韩琳
凡十人
密谋于正始十年三月
废天子以自立
春秋之义 君亲无将 将而必诛
爽以支属 世蒙殊宠
亲受先帝握手遗诏
托以天下
而包藏祸心 蔑弃顾命
乃与丁谧 何晏等
图谋神器 皆为大逆不道

すでに審理を終えました
首謀者は曹爽そうそうであり
曹羲そうぎ 曹訓そうくん 丁謐ていひつ 何晏かあん
鄧颺とうよう 畢軌ひつき 李勝りしょう 桓範かんはん 韓琳かんりん
共謀しました
正始せいし10年3月に
帝位を奪う企てでした
春秋公羊伝しゅんじゅうくようでん」は
弑逆しいぎゃくは未遂も大罪”と説く
曹爽そうそうは宗室の恩寵おんちょうを受け
先帝から遺詔いしょうを授かり
天下を託された
ところが叛意はんいを抱いて
丁謐ていひつ何晏かあんらと簒奪さんだつを謀った
大逆不道の罪なり

  初,張當私以所擇才人等與。疑其有姦,收治罪。等陰謀反逆,並先習兵,須三月中欲發,於是收等下獄。會公卿朝臣廷議,以爲「春秋之義,『君親無將,將而必誅』。以支屬,世蒙殊寵,親受先帝握手遺詔,託以天下,而包藏禍心,蔑棄顧命,乃與等謀圖神器,黨同罪人,皆爲大逆不道」。於是收等,皆伏誅,夷三族。

陳壽撰、裴松之注《三國志 二 魏書〔二〕》(中華書局,1982年) 諸夏侯曹傳第九 p.288

最初、張当ちょうとうは、こっそりと自分が選んだ才人(女官)の張某・何某らを曹爽に贈ったことがあった。〔朝廷では〕何か不正があるのではないかと疑い、張当を逮捕して罪状をとり調べた。すると、張当は、曹爽が何晏かあんらと反逆の陰謀をこらし、以前そろって兵士を訓練し、三月になるのを待ってクーデタを起そうとしていた、と陳述した。その結果、何晏らを逮捕して投獄した。公卿・朝臣を集めて朝議を催し、次のように判断が下された、「『春秋』のたてまえでは、『君と親とに対しては殺害を考えることすら許されない。考えるだけで処刑されて当然である』(『公羊伝』荘公三十二年)とされている。曹爽は皇室の分家筋にあたることから、代々格別のご恩寵をこうむり、先帝が親しく手を握って遺詔を授け、天下を託された。それなのによからぬ計画を心に抱き、先帝のご遺言をないがしろにして、なんと何晏・鄧颺とうようおよび張当らとともに神器をねらおうと計画した。桓範はこれら罪人に同調した。彼らはみな大逆不道の罪に相当する。」かくて曹爽・曹羲・曹訓・何晏・鄧颺・丁謐・畢軌・李勝・桓範・張当らを逮捕し、ことごとく処刑し、三族(父母・妻子・兄弟姉妹)皆殺しにした。

陳寿、裴松之注、今鷹真・井波律子訳『正史 三国志 1 魏書Ⅰ』(ちくま学芸文庫、1992年) 諸夏侯曹伝 第九 p.185

※引用した訳注では「三族」を父母・妻子・兄弟姉妹としているが、三族の定義は諸説ある? また同時代でも法の改正により誅殺される範囲が変更される例がある。

秋,七月癸巳,公子牙卒。何以不稱弟?殺也。殺則曷為不言刺?為季子諱殺也。曷為為季子諱殺?季子之遏惡也,不以為國獄,緣季子之心而為之諱。季子之遏惡奈何?莊公并將死,以病召季子,季子至而授之以國政,曰:「寡人即不起此病,吾將焉致乎魯國?」季子曰:「般也存,君何憂焉?」公曰:「庸得若是乎?牙謂我曰:『魯一生一及,君已知之矣。』慶父也存。」季子曰:「夫何敢?是將為亂乎!夫何敢!」俄而,牙弒械成。季子和藥而飲之,曰:「公子從吾言而飲此,則必可以無為天下戮笑,必有後乎魯國。不從吾言而不飲此,則必為天下戮笑,必無後乎魯國。」於是從其言而飲之,飲之無傫氏,至乎王堤而死。公子牙今將爾,辭曷為與親弒者同?君親無將,將而誅焉。然則善之與?曰:然。殺世子母弟,直稱君者,甚之也。季子殺母兄,何善爾?誅不得辟兄,君臣之義也。然則曷為不直誅,而酖之?行諸乎兄,隱而逃之,使托若以疾死然,親親之道也。

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献帝春秋けんていしゅんじゅう』(『三国志さんごくし魏書ぎしょ董卓とうたく伝の注に引く)他より

曹爽らが北邙山の刑場へ引き立ててられていく中、町の子供たちが歌っている。34話(軍師連盟76話)にも登場した、霊帝の時代の予言歌。詳細は34話参照。(今回は「北芒北邙山」との解説テロップがある)また、町の大人たちが語り合っている。

侯非侯 王非王
千乘万骑上北邙

 

这是连孩子都不放过呀
几十年了这么一回
这北邙山头上
埋了多少王侯公卿啊

侯は侯にあらず
王は王にあらず
千乗万騎 北芒ほくぼうに走る

なんと 幼子も容赦せぬのか
数十年ぶりだ
また北邙山に
王や諸侯のむくろが埋まるぞ

公開:2022.07.31 更新:2022.08.12

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